ナースログ 「河は眠らない」より
森を歩いているとよくわかるんですけれども、
斧が入ったことがない人が入ったことがない森、
というのがそこらじゅうにいっぱいある。
それで、土が露出していないで、シダやらなんかに覆われていますが、
草とも苔ともつかないもので森の床全部が覆われている。
それから風倒木が倒れて、たおれっぱなしになっている・・・
これが、実は無駄なように見えて実に貴重な資源なのであって、
風倒木がたおれっぱなしになっていると、そこに苔が生える、
微生物が繁殖するバクテリアが繁殖する、
土を豊かにする、
小虫がやってくる。
その小虫を捕まえるためにネズミやなんかがやってくる、
そのネズミを食べるためにまたワシやなんかの鳥もやってくる、
森にお湿りを与える、
乾かない。
そのことが河を豊かにする、ともう全てがつながりあっている。
だから、あの風倒木のことを、
森を看護しているんだ、
看護婦の役割をしているんだ、
というのでナースログ(nurse-log)というんですけれども、
自然に無駄なものは何もない、
というひとつの例なんです。
だから、そうすると、人間にとってナースログとは何でしょうか?
無駄なように見えるけれども実は大変に貴重なもの、
というものも人間にはたくさんあるんじゃないか?
それぞれの人にとってのナースログ、とは何か?
無駄をおそれてはいけないし、無駄を軽蔑してはいけない。
何が無駄で何が無駄でないかはわからないんだ。
ここがひとつの目の付け所ですね、これは大事なことですよ。
無駄なことしてると思うことはないんであって、
いつかどこかでまた別のかたちで甦っているのかもしれないんだ。
written by 開高健『河は眠らない』
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